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備忘録や情報まとめのメモ。間違いがありましたらご指摘いただけるととてもとても有り難いです。

Hammer Time

インタビュー記事の拙訳です。

 

 

 

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「あの、あなたが…?」頭上からバリトンボイスが尋ねた。アーミー・ハマーがこちらへ屈みこんでいるのを席から見上げたとき、そう、”うっとりする”という意味が解ったとだけ言っておこう。ありえないことに彼が私たちのランチデートに40分早く来てくれたからというだけでなく、インタビュアーを検索しておくという前代未聞の手段で私を認識してくれたからというだけでもなく、もしかしたらロマンス小説の常套句がこれほど相応しい身体を持った男性は他にいないからだ。196センチ、逞しいとしか表しようがない肩。滑らかな金色の肌と太平洋の色をした目。涼しい春の日に、彼の亜麻色の髪は風で乱れ、並外れて整った輪郭の顎には無精ひげが散っている――礼儀正しく気品ある態度の陰に野生味が潜む最初の兆候。

以前ハマーの広報係がこの26歳の青年が”一番落ち着ける”はずだとこのウェスト・ハリウッドにあるサンセット・マーキスのレストランを教えてくれたのだが、ベスパに跨ることについて楽しげにお喋り(「スクーターに乗ってる内は最高にカッコいいんだよ」)しながら――心底欲しいオートバイは結婚して3年のエリザベス・チェンバース夫人が買わせてくれないのでベスパはその代わりだという――ヘルメットをボックス席に投げ込むのを見て、それは嘘だったのだとわかった。アーミー・ハマーはデザイナーズホテルでしか寛げないようなお堅いハリウッド俳優ではない。ただの一人の男性だ。それか少なくとも、特別広いこのボックス席でさえ長い脚を持て余している様子の、大きくてゴールデン・レトリーバーめいた少年のような男性だ。

ハマーはテキサスで射撃をして育ったと読んでいたので(「家族の遊びみたいなものだったよ――外に出てサボテンをガンガン撃って」と彼は説明した)、私はランチを抜かして一番近い射撃場へ向かわないかと提案した。彼は「よっしゃあ!」とiPhoneをスクロールし近所の射撃場を探す。「僕が好きなのはエンジェルス・ナショナルフォレストの隣のところなんだ。スイカを空中で撃ったりできるんだよ」ハマーは大の銃好きで――18歳で初めてのライフルを買った――今月公開のローン・レンジャーでの主役で趣味を活用しているが、武器にまつわる現在の議論には敏感だ。「責任についてはハッキリ賛成だ」検索の手を止めて言う。「オバマが銃を取り上げようとしているとは思わないし、持ち続けるために政府と争わなければいけないとは思わない。息子と22口径ロングライフルを持って狩猟旅行に出かけて缶を撃ちたいっていうなら問題ない。狩猟旅行に行くのにAK-47*1と100連マガジンが要るか? ノーだ。孔子の言葉を借りれば蚊を殺すのに大砲を使うようなものだ。西部劇を作ったばかりだけどね」ふいにニヤッとして彼は言う。「腰に銃があるのは楽しいよ。『男の象徴が増えたぞ』ってね」

彼は検索を再開したが、無念、近くの射撃場がオープンする3時まであと2時間あり、ハマーは4時に人と会う予定があった。「くそっ。楽しかっただろうになあ」と彼は言う。「けどここも好きだ。前はいつもこのウィスキーバーに来てベロベロになってた。最高だよ。飲んでると隣にスティーヴン・タイラーとかが座ってるんだ」彼の目が輝く。そのアイデアは? 残念、そのバーは午後8時オープンだとウェイターが教えてくれた。この店に落ち着いたところで、ハマーはステーキをレアで頼んだ。

この俳優の趣味は昔ながらの男性的なものだ。オリベッティ製ヴィンテージのタイプライターのコレクションを持ち、いつか煙草の製造所を開くことを夢見て、撮影現場ではロープワークの本を読んで気晴らしをする。ロープワークとは!「ロープワーク大好きなんだ」彼はステーキを切りながら宣言した。

「アーミーは彫り出し物だ」と『ローン・レンジャー』の監督、ゴア・ヴァービンスキーは言う。「彼はある意味…古風だよ。初めて会った時にそう感じた。旧知の友人の若い頃を訪ねるようだった」

ハマーの2010年『ソーシャル・ネットワーク』におけるウィンクルボス兄弟の演技はすっかり観客を魅了し、とりたててカリスマ的ではない実在の双子が結果的に有名になったほどだった。しかしその映画以降、彼は比較的日陰の身で、過去3年の間2つの映画にしか出ていない。顔をシミと皺で覆いレオナルド・ディカプリオの同性の恋人を演じた『J.エドガー』、白雪姫のリメイクでアルコット王子を演じた『白雪姫と鏡の女王』。その状況はジョニー・デップがハマーのサイドキックを演じる製作費2億5千万ドルの夏の大注目作『ローン・レンジャー』のリリース後には変わるはずだ。ちょうど今朝、その映画の予想においてある業界団体は彼を『あすの男性スター』と名付けた。

けれどハマーはただ名前を売るために役を受けた訳ではない。「冒険映画が大好きなんだ」彼は少年のように熱っぽく言う。「問題に直面し対処しないといけない男、するとそこには冒険がある――英雄の旅だね、ジョーゼフ・キャンベルの用語を借りれば。たとえば『白鯨』。イシュメイルのやつ!」ハマーは制作会社を立ち上げている最中で、大西洋を横断したイギリスの冒険家ジョン・フェアファクスの伝記の権利を手に入れたいと願っている。ニューヨークタイムスで死亡記事を読んだ後にハマーは初めて彼のことを学んだ。「じっとしてなんていられない時が誰にでも少しはある」

そうだろう。ハマーはユタ州モアブでの『ローン・レンジャー』の撮影中、週末をクルーと一緒にロッククライミングやクリフジャンプや、彼曰く「ただ山を暴走するために」四輪バイクを借りて過ごした。そしてオーストラリアに滞在中のこと、「あるホームレスの男に刺されそうになって、殴ってナイフを盗んだ」。

待って。ホームレスを殴ってナイフを盗んだ?

「彼が始めたんだ」その男は金を貸していた相手とハマーを間違えてナイフを振り始めたという。「僕は血気盛んだったから『ファック・ユー』って」彼はふざけてパンチのふりをした。「ナイフを取り上げたのは他の人を刺そうとすると思ったからだよ! 彼は明らかにイカれてた」

「妻が言うには僕は前頭葉に問題があるらしい。前頭葉は『わ、これはやっちゃダメだ』って危険への反応をコントロールしてる。でも前頭葉は30歳前後に成熟するから大丈夫だって言うんだ。だからそれまでには直して落ち着かないと」

アドレナリンはすごいが、アーミー・ハマーはそこらの兄ちゃんとは違う(文学作品や哲学者を引き合いに出したことが最初の手がかりだろう)。彼はアーマンド・ハマー二世であり、石油企業オクシデンタル・ペトロリウムで長年会長を務めた曽祖父からその名がとられた――重曹会社ではなかったが、彼はやがてはその取締役を務めることになった(「曽祖父は買いたがったんだ」とハマーは言う。「重曹にアーム&ハンマーってつけたら面白いと思ってね。会社側は『いえいえ、売り物じゃありません』って感じだったけど、その後株式が上場した時に彼は結局株を買い込んで『ハッハッハ、君たちの会社を手に入れたぞ』と」)。

ハマーは主にロサンゼルスで育ち(数年間はテキサスやケイマン諸島で過ごした)私立学校に通ったのだが、上流社会向けの顔を持ちつつも反逆精神を持ち合わせていて、ある高校では芝生に軽油で名前を書き火をつけて退学になった。そして大学へ行かせようとする両親に抵抗した。「大学は眼中になかった」と彼は言う。「自分が映画を作りたいことがわかってたから」両親は承諾したが、彼は自活しなければならなくなった。

幸いハマーはすぐに仕事を獲得し始めたが、映画や『ゴシップ・ガール』などのドラマでのちょい役だった。「いつも僕の役名は『スポーツマンその4』とか『アバクロンビーの青年』とかだった」当初彼はLAのパーティーシーンに気を取られた。「あれはまるで――」彼はしばらく見るからに気まずそうに言葉を切った。「祖父母がこの記事を読むのを想像してね」彼は説明してから続けた。「僕はたくさんの愛と善良の家で育って、すべてが健全に感じられてた。自立してみて、このロウソクがどれだけ熱く燃えるか見てみようって感じだったんだ」3、4年の間、ドラッグに酒、寝ずに明かす日々やたくさんの(彼の評価によれば『すごく困り者』の)女の子たちを経験した。

「ある子はセックス中に刺そうとしてきた。あまり話すべきじゃないんだろうけど」と彼は言った――そしていずれにせよ話した。「『真実の愛は傷を残すの。あなたには傷がない』って。それから肉切り包丁で僕を刺そうとしたんだ。もちろんすぐ別れたよ」と彼は言う。「7か月後に」

「僕は彼をブルース・ウェインって呼んだよ」10歳近い歳の差にかかわらず演技教室で出会ってすぐハマーと意気投合した友人であるジョー・マンガニエロは言う(ふたりはそこで非公式支援システムとハリウッド高身長俳優の会を作った)。「スマートで喋りにそつがなくて、バットモービルに似たレースカーを乗り回してた」マンガニエロが『トゥルーブラッド 』にキャスティングされた時ハマーにステーキを奢って祝い、ほどなくしてハマーは『ソーシャル・ネットワーク』の仕事をモノにしてお返しをした。

ハマーはその映画で知れた名を、多くの24歳の青年が使いそうな方法で利用することはなかった。その代わり2008年に付き合い始めたTVジャーナリストで元モデルのチェンバースと結婚した。チェンバースは当時別の相手と付き合っていたが上手くいっておらず、ある晩彼女が友人とやって来た時、ハマーは用意しておいたスピーチで行動を起こした。「僕は『君は彼氏と別れるべきだよ、だって僕らは付き合い始めるべきだから』って言ったんだ。彼女は口をぽかんと開けてた。『君は僕のために作られたんだ』って言ったらこんな顔して、」――裏声で――「『もうやめて』」彼は笑った。「僕は『待って待って! それで僕は君のために作られた。僕らは一緒になるようにできてる。30年経って僕も君もそれぞれ何回か結婚した後で一緒になることもできるけど、今始めて60年後にはポーチで揺り椅子に座って全てがなんて良い冒険だったろうって語り合うこともできる』って」

そのスピーチは功を奏したと見える。「結婚っていう概念が好きだ。親友がいるっていう概念が好きだ」彼は指にはめた指輪を回しながら言う。「本当にほっとする。独身で彼女を作ろうとしてた時のことを覚えてるけど精神的に疲れたし大変だった。楽しくなかったよ。今は楽しい。その、ぼかすと」彼は祖父母に聞こえないよう形だけ声を潜めた。「セックスしててその最中にすごくおかしなことがあったら笑っていいんだ。恋人だったら気を遣いすぎてそんなことできないよ」

妻のことに関してはハマーはオープンにロマンチックだ。「人前でキスすることに気が咎めたりはしない。『やめろよ、人がいるところで』っていうタイプの男性がいるのは知ってるけど」と彼は言う。「僕らの文化の大部分は男らしさってものが占めてる――泣かないこと、弱さを見せないこと。僕が言いたいのは男も女性と同じだけ感情的に複雑だってことなんだ。上手く誤魔化してるだけでね」彼は躊躇なくチェンバースを彼の『ソウルメイト』と呼ぶ。「安っぽい言い方をするつもりはないんだけどそういう結びつきなんだよ」

一族の著名な富を思えば(彼らは町向こうにファン・ゴッホセザンヌを含めた作品を常設するハマー美術館を創建した)、ハマーが望めばいつでも使える相当な信託基金があるのではと考えがちだろうが、しかし彼は両親に大金を与えられたこともなければ頼んだこともないと断言した。「結婚してしばらくはまあキツかったよ」と彼は言う。「そして僕らはそれを気に入った。その日暮らしに近い生活はいいよ。そうやって暮らす必要がなくなった時にその日々の価値が解るんだ。僕らは親のところへ逃げ込んで助けを乞いたくはなかった。自立した大人でいたかった」

滔々と語られる率直な話を疑ってかかるのは無理だ。それでも、オートバイを買っていないのはお金の問題もあると言われた時私は完全には信じられなかった。「かつてMCっていう名前のもう1人のハマーはすごい早さで全財産を使い切ってしまった。僕はそうはなりたくない」

でもあなたは『あすの男性ムービースター』ですよ! と私は言う。

「でも『今日の男性ムービースター』じゃない」と彼はまぜっかえす。

ハマーは演技の仕事の”戦略的小休止”に入っているのだとエアクオートを作りつつ彼は言う。やりたい仕事が見つかっていないということだ。「オファーはある」と彼は付け加えた。「でもそのオファーっていうのは『彼を獲得しなきゃ。あの映画が製作されるぞ、彼にその映画をオファーしよう』という類のものなんだ。『46歳のヒスパニックの男性をやって欲しいって? それは違う気がする』」

彼の経歴の簡潔からわかるように、キャリアに関してはハマーは珍しいほどに抑えめだ。トワイライト世代の一員としては落ちかねない罠には用心深い。「映画で脱ぐ事にはあまり興味がない」と彼は言う。「若くてハンサムな俳優がいれば脱がせてカメラの前に立たせるっていうのは目下の問題だよ。いつでも撮られる準備をしておかなきゃいけないプレッシャーがかかる。僕はそこまで自分自身にかまけたくないよ。そういう人たちは『おっと2時間経つ、サツマイモを食べないと。グリセミック指数が下がってる』ってやってるんだ。そうやって簡単にナルシストに変えられてしまう。ばからしいよ」

彼は合わない映画に出るよりは一切出ない方を選ぶという。「多くの人たちは映画を作るのにかかる時間を理解してない。立ちっぱなしで18時間働いて2、3時間眠って起きての繰り返しなんだ。でも満足してる」と彼は強調する。「仕事にするには好きすぎるんだ」

その間に彼とチェンバースは、彼らの”大きな計画/壮大な妄想”(おそらくチェーン展開のようなこと)に向け『バード』というベーカリーをサンアントニオのチェンバースの故郷でオープンした。私達が会った時に彼に決定していた大役はサンアントニオのバトルオブフラワーズパレードの大トリだけだ。「適切な仕事を待ってるところなんだ」と彼は説明する。「1つ進むごとにわかったのが、適切な理由で適切なプロジェクトを選ぶことだ」数週間後、適切なプロジェクトはやってきた。『0011ナポレオン・ソロ』改作のガイ・リッチー映画でハマーはトム・クルーズと並び秘密工作員役の候補だ。

伝票が到着する。ハマーは手を伸ばしたが私の方が早かった。「レディーファーストの本能に反するな」彼は少しはにかみながら言う。「でもありがとう」

スクーターの傍らでハマーは彼が創作したロープワークの一つを見せてくれた。初めはベーシックなスリップノットだがきれいなハーフヒッチで終わっている。「標準的なやつから始めたかったんだ」と彼は言う。「でもそれから捻りを利かせた」彼のパーソナリティの隠喩としては悪くない。

ハマーは私にハグをしてくれた。なんだかあたたかな岩の入った袋に包まれるようだ。太陽は谷へ沈み大きく輝きを増して通りをあたたかな光で満たしていた。二輪車を発進させて手を振り、あすの男性スターは文字通り夕日の中へ消えていった。スクーターに乗って。今のところは。