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【EW】ボヘミアン・ラプソディ インタビュー

グウィリム・リーさん、ジョー・マッゼロさん、ベン・ハーディさん、ジュリアン・デイさん、ニュートン・トーマス・シーゲルさんのインタビュー拙訳です。

 

ボヘミアン・ラプソディ』という楽曲は、序盤にはフレディ(ラミ・マレック)が練っているメロディとして登場し、ライヴエイドではバンドの成功したパフォーマンスの一曲として反復されるなど、映画のあらゆる場面で役割を負っている。しかし、この歌が誕生するまでやレコーディングの様子、レコード会社に売り込むまでのストーリーを語ることがこの映画の中心である必要があった。

ニュートン・トーマス・シーゲル(撮影監督):『ボヘミアン・ラプソディ』は色々な意味でこの映画の根底にあるメタファーであり、主題のBGMだ。
グウィリム・リー(ブライアン・メイ役):僕らはライヴエイドのシークエンスからすべての撮影を始めたんだけど、そのライヴエイドの開始は『ボヘミアン・ラプソディ』からだから、僕らのこの歌の旅路は数週間のうちに終始した。ライヴエイドで演奏された『ボヘミアン・ラプソディ』は彼らの頂点の一つであり、史上最高のパフォーマンスの幕を切って落とす曲なんだ。その数週間後には僕らは農場にいて、この曲が存在しなかった頃を想像して制作過程を経験しなければいけなかった。
シーゲル:バンドが一丸となって曲を作りレコーディングする過程を見せるためだけでなく、『ボヘミアン・ラプソディ』がどれだけ当時のロックソングと違っていたかを見せる作りなんだ。この曲はそれまではほぼなかったレベルの多重録音を利用した。ハードロック・ギターからほとんどアカペラのオペラティックなボーカル、難解な詞、バラードまですべてを取り入れてる。あのシークエンスでその視覚的な展開を見せたかった。
ベン・ハーディ(ロジャー・テイラー役):この曲の誕生のストーリーを再現する一員になれたのは名誉なことだったよ。タイトルが浮かぶまでレコーディング中の大半の間この曲は『フレッドの(Fred’s Thing)』って呼ばれてた。Queenはとても実験的で常に新しいことに挑戦していて、この曲の場合はバンドはフレディを信じて彼のアイデアと共に進んだんだ。
シーゲル:あのシークエンスは曲作りの際にトラックが重ね合わせられたのと同様に重ねている感じ。フレディが他のメンバーに彼がやっていることを伝えようとしているショットの数々は終わりには少し速く、そしてより雑然とし奇抜なものになる。

数十年にわたる年月を描く中で、この映画はQueenのユニークなロックスターファッションを享受し1970年代と80年代のファッション・トレンドを祝福している。ロックフィールド農場でのバンドの精神の確立と、この曲を制作するために必要な考え方は、服から始まった。

ジュリアン・デイ(コスチュームデザイナー):彼らがレコーディングに向かったのはウェールズ中部のモンマスで、ロンドンとは真逆の土地。農業コミュニティなんだ。僕は彼らが場違いに感じているように見せようとした。ハイヒールと毛皮のコートなどとてもロンドン志向の服を着ているところから着手して、制作の日々が経過するにつれ彼らの服装はやや寛いで、もう少し田舎っぽい、落ち着いたものになる。
ハーディ:僕は派手な大きい毛皮のコートを着てヒールも履いて農場に歩いて入って行くんだ……あれは非現実的だった。田舎育ちだから馴染みはあったけど、派手な70年代の衣装であそこにいるのは訳が違ったな。
デイ:到着したときのフレディの白いTシャツ、白いシューズ、白いサテンのトラウザーズ、黄色と緑のストライプのジャケット姿がすごく気に入ってる。周りの景色とちぐはぐだから。リードシンガーとして彼はとてもセクシーな装いをしてた。ブライアンはもっと洒落た感じでとてもスタイリッシュ。ロジャーとディーキーは70年代らしいもっと楽しい要素がある。ディーキーはジーンズのウエストバンドから作ったジーンズと揃いのジャケットを着てる。そこには鶏がいて、(ロジャーは)鶏みたいな恰好をしてるんだ。おめかしした若いおんどりみたいなね。

プロダクション・チームは実際の農場に仕事場を設置し、納屋の中のロックフィールド・レコーディング・スタジオを再現して建て、あのバンドがしたのと同じような実験的試みをする余地を俳優に与えた。

シーゲル:実際のウェールズのレコーディング・スタジオの歴史的に見て正確に近いバージョンの作り出すために、エンジニアリング・ブースを納屋の中に建てて楽器やなにかを全部持ち込んだんだ。
ハーディ:彼らはさして派手でもなく魅力的でもない農場の家に行った。それを再現するのは興味深かったよ――二週間の撮影の間家畜たちに囲まれてたんだ。あのレコーディングスタジオにいた彼らの感覚がわかったよ。
ジョセフ・マッゼロ(ジョン・ディーコン役):あの期間はアドリブがたくさんできたね……あれこれ発言できて、レコーディングスタジオにいて独創的でクリエイティブなことをしているような気分を味わった。本当にその瞬間そこにいて一緒に曲を作ってたみたいに意見をぶつけ合ってね。
リー:台本にはたぶんページの8分の1に『ブライアン・メイがあの有名なギターソロを録音している』っていう文に沿ったとてもシンプルな描写が書かれてた。このシーンを説明したらそうなるだろうけど、僕らは時には20分間カメラを回し続けてお互いにやりとりし続けたよ。

この曲はフレディが考案したもので、オープニングコードをピアノで弾いた後にバンドへと曲を渡し、ブースの中からレコーディングを見届ける。

リー:彼らは先がどうなるかよくわからないままただ流れに従いながらも、フレディのヴィジョンを信じて専念してたんだ。僕らが日々撮影現場で表現していたやり方にはその要素があった。あのシーンの描写はとてもとても簡素だったけど、僕らは個々の瞬間がどんなだったのか探ろうと努めたよ。
シーゲル:時間の経過を見せたかった。この歌は一夜で作られた訳じゃないってことをね。ふいにフレディの頭に浮かんで翌日録音、なんて流れじゃなかった。
リー:フレディはブースからスタジオの中に話しかけるときにいつもボタンを押すのを忘れてたらしい。台本には書いてなかったけどブライアン(・メイ)が「ああ、彼はいつもそうしてたよ」って話してたんだ。ブライアンはマイクで話すよりもよくギターのピックアップを通してブースに話しかけてた。そんなことがありうるとは知らなかったけど、信頼できる情報だからとても愛着の湧く彼のディティールの一つだよ。確かな筋からの話だ。

モンタージュの一部として、ブライアン・メイサウンドについてフレディの指導を受けながらこの曲半ばの象徴的なギターリフをレコーディングするシーンが見られる。

シーゲルブライアン・メイは伝統の継承者ともいえるわけだけど、とても快くあの時代のあらゆる画像や映像を提供してくれたよ。
リー:僕がブライアン・メイの伝説的なギターソロをレコーディングするシークエンスを撮るというときに、カメラが向きを変えようとしたところでブライアン・メイが部屋の後ろに姿を現して、スタジオがしんとしたんだ。
シーゲル:あれ以上におそろしいこともないよ。これから世界的に有名なギターソロを弾くというときにだよ、その作り手兼最高の演奏者がキャストの前に現れて油断のない目で見てるという――グウィリムがあの瞬間をどう切り抜けたのか僕には想像もつかない。
リー:ファーストテイクを見た彼は僕のところへまっすぐやってきて、僕を抱擁してとても満足だと言ってくれた。彼はとても協力的で、僕らのことを批判的な目で見たことなんて一度もなかったよ。僕らの手助けをしよう、シーンをよりよいものにするために情報を与えようとしてくれていた、ただそれだけだった。
シーゲル:ブライアンはあのギターソロに関して本当に多大な貢献をしてくれた。ロジャー・テイラーが"ガリレオ"に関してそうしてくれたのと同様にね。僕はふたりの貢献を祝福してこの二つに独特な外観を与えたかった。ブライアン・メイのギターソロは象徴的なギターの神のように映ってる――スモークに包まれ逆光で、ややミステリアスな色調だ。
リー:ソロの中で大きなチョーキングのあるところでカメラが僕の手元から顔へチルトするのをブライアンはモニターで見てた。彼は「カメラがきみの顔を映してるから、チョーキングの間表情に出してもいいと思う。少ししかめ面をして。あのストリングはキツいからね」と。

この曲は彼らがレコーディングしていたアナログテープの容量に限界まで迫った多重録音で注目を集めた。

マッゼロ:僕はベンのすべての"ガリレオ"の間、撮影現場に一緒にいた。彼を使ってひたすらどんどん高く歌わせてさらに重ね録りすように煽るのは僕の役目だったんだ。彼らは本当にテープをだめにしたから、そこは正確にやりたかった。
シーゲル:我々はあの時代のミキシングボードとテープをすべて集めることができたんだ。当時はアナログがまだ王者だった頃だ。時間内に映したかったからあのテープレコーダーやテープの回る様やVUメーターの見事なクローズアップを楽しんだよ。70年代当時のレコーディングはこんな感じだったんだろうなと感触を得られた。
マッゼロ:彼らはテープを使い尽くしたんだ。もう音を重ねられないところまでいって、あるところは透明になってた。彼らはどうにかみんなが聞いたことのないサウンドを手に入れたかったんだ……。ロックソングの中のぶっ飛んだオペラ・パートを完璧なものにするために、彼らは録音に使ってたテープそのものを壊しかけるところまでいかなきゃいけなかった、っていう歴史の一片を再現するのは楽しかったよ。

ロジャー・テイラーは曲の中で印象的な彼の比類なきファルセットによる"ガリレオ"を望み通りの音が得られるまで何度も録音する。

シーゲル:ロジャーのボーカルのショットは窓から射し込む陽光の非常に明るいハイライトを伴って徐々に寄って行く――声が割れそうになるまでもっと高くもっと高くというフレディの要請に応えつつね。あれが『ボヘミアン・ラプソディ』に独特のサウンドを与えてるものの一つだ。
ハーディ:僕は実際に歌うって気づいてなかったんだ。ライブパフォーマンスの撮影時は全員歌ってたけど、音楽が流れてるから僕らの歌声は聞こえなくて安心して歌いまくれた。レコーディングスタジオのセットの中にいたらクルー全員がいて、そこで突然"ガリレオ"を歌わないといけないと気付いたんだ。信じられないほど高くて難しいのに、みんなに聞かれる。すっかり怖気づいたね。そうか、これを撮るならとにかく一生懸命やるよ、って感じだった。
マッゼロ:彼らはロジャーに人体に可能な限り高い声を出してほしかったんだ。限界を広げて頑張ってくれと。それが『ボヘミアン・ラプソディ』の全体の流れだった。もしアイデアがあれば、普通じゃないかもとかクレイジーかもと感じても、それがいっそう彼らに火をつけて試しにやってみるんだ。
ハーディ:延々撮影したな。撮影中は僕とジョーのやりとりが主で、"ガリレオ"を歌いつつあれこれ言い合って、僕の声が壊れそうになるまでずーっとそれを続けた。すごく楽しかったよ。彼はひたすら「もっと高く」って。ロジャーが実際出してるピッチがあるからそれより高くはできないんだけど、回を重ねるたびに高い音になってるような感じがした。声が出なくなっていってたからね。
マッゼロ:ベンを苦しめるのは面白かったな。「もう一回、もう一回、もう二回、もう一回、もう一回を二回、もう一回をもう三回」って言ってひたすら続けさせたんだ。
シーゲル:僕らの撮ったおんどりが1匹で塀の上で鳴いてる素晴らしいショットがあって、我らが編集のジョン・オットマンが無類の才気でもって"ガリレオ"の最初の音をそのおんどりの口の動きと合わせたんだ。あれはとてもこの曲の精神をとらえてる。

バンドは納屋の広々とした空間に集合し、カルテットとして共に最後のハーモニーを録音する。

シーゲル:あのレコーディング・ブースは納屋の中に作った。ステージならたぶん壁を外して運び入れたり出したりするだろうけど、僕らは実際のレコーディング・ブースの範囲内に収めておいた。当時のレコーディングの一部の裏側を覗き見る感覚になれる。
リー:ブライアンとロジャー(・テイラー)は1975年のあの日にスタジオにあった彼らの楽器の多くを現場に持ってきてくれた。『オペラ座の夜』レコーディング時の写真を見たらまったく同じ楽器が後ろにあるのがわかるよ。ブライアンの初めてのギターもある。12歳くらいの頃に初めてもらったアコースティックギターをブライアンが持ってきたんだ。これは音楽史の一端だ。歴史の一員であるという実感、歴史への繋がりを実感させてくれるものだよ。
マッゼロ:みんなで歌って倒れて僕らの周りのあれこれが崩壊するシーン――あれは元々予定されてたんだけど、確かラミが「待てよ、こんなにオリジナルの楽器があるのにこんなことしたらぶっ壊すことになるぞ」と言って。大変なことになるところだった。それらを丁重に現場から移動させた上で倒れて全部ぶっ壊すシーンを撮ったよ。
ハーディ:4人全員でマイクを囲むのはあれ一回きりだった。このバンドにとって一緒に作品を作るのは楽しかったに違いないっていう感覚をあれで得られたよ。

レコード会社の重役との諍いと曲をラジオで放送してもらうための裏取引の後、この映画における『ボヘミアン・ラプソディ』パートは、このバンドをスーパースターダムへと送り込むことになった1975年のミュージック・ビデオの再現と共に終わる。

マッゼロ:あれは僕のお気に入りなんだ。初めて映画を観たときあの菱形のフォーメーションが映った瞬間劇場でマジで立ち上がって「イェェェェイ!」って言っちゃった。
シーゲル:あのミュージックビデオを研究したよ。比較的シンプルなセットだから、彼らを正しい位置に配置して正しいアングルに頭を向けることが問題だったね。それから1本のトップライトを当てて影の多いミステリアスな状態を作り、シルエットから光の中に現れるあのオープニングのスタイルを再現した。
デイ:あの映像をちゃんと見てみると画面がかなり暗くてよく見えないんだよね。少し演出を加えてあるけど、僕はできるだけ正確に再現したかった。
マッゼロ:最高だったことのもう一つが、あれが四人で一緒に撮った一番最後だったんだ。だからすごく特別なシーンだった。
ハーディ:確実に手ごわい撮影だったよ。極力本物に近づけるように時間をかけて練習することを意識した。ああいう象徴的なシーンは脚色を混ぜる余地があまりないからね。実際2回撮ったんだ。初回は僕たちの誰も100パーセント満足はしてなかったと思う。良い出来ではあったけど、正確を期するためにもう一度撮りたいと思った。
リー:ミュージックビデオのあのパートが続くのは曲の最初の1分20秒だけなんだけど、僕らが撮影したときは曲が再生され続けて"ロックアウト"セクションまでいったんだ。歌のあの瞬間までいって、僕らは「どうしよう?」と思って。やることは一つだよね、『ウェインズ・ワールド』のヘッドバンギングを衣装を着たままあの菱形のフォーメーションでやったよ。どこかに映像が存在するからいつかみんなが見られるといいな。*1

*1:グウィリムさんがインスタに投稿済みです→https://www.instagram.com/p/Bpr_pqrBrFR/?utm_source=ig_web_options_share_sheet