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【American Way】チャドウィック・ボーズマン インタビュー

2018年2月のチャドウィックさんのインタビュー拙訳。

 

 チャドウィック・ボーズマンは踊りたがっている。ハリウッド大通りを望むホテルのスイートで写真撮影のためにポーズをとる彼の傍らでは、必須である音楽的インスピレーションのためにスタイリストがスマートフォンを部屋のスピーカーに接続する方法を必死に探っていた。素のボーズマンは驚くほど遠慮がちだ――よそよそしいとまではいかないが、クールというよりミステリアスという部類。しかし正しいプラグが見つかってジェームス・ブラウンの『The Boss』が流れ出したとき、ボーズマンの足はシミーを踊り出した。「これが離れないんだ」と41歳の俳優は言う。ダンスで足がかすんで見える。マーベルコミック初の黒人スーパーヒーローであるブラックパンサー役を勝ち取る前、2014年の思慮に富んだ伝記映画『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』でジェームス・ブラウンを的確に演じたことで彼は最も知られていた。
 私はその動きを収めようと携帯を取り出したが、それに気づくと彼はぴたりと止まった。「そこでなにをしてるかわかってるぞ!」と朗らかな微笑を覗かせながら叫ぶ。少しして携帯がしまわれると、彼の即興ダンスパーティは何事もなかったかのように続いた。エゴのかけらも見せずにボーズマンはこの部屋を支配していた。

 このナチュラルな威光によって、マーベルスタジオは架空のアフリカの国王でありタイトなパンサースーツと鋭い爪を身につけたクライムファイターであるティ・チャラ役にボーズマンを選んだ。スタン・リーとアーティストのジャック・カービーによって作り出されたこのキャラクターは1966年のコミックで誕生した。ブラックパンサーはクールなヤツであると共に社会的主張だった。ただ黒人だっただけではない。素晴らしい起源とすごいパワーを持っていた――強化された五感と腕力、それに頑強な金属が織り込まれた滑らかなユニフォーム。以来このキャラクターはスーパーヒーロー・コミュニティの大黒柱だ。ボーズマンがティ・チャラとして初登場したのは2016年『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』だった。
 今月のブラックパンサー単独映画の公開(2月16日)は同様の主張を表している。主に黒人のキャストを中心に据え、作中のほとんどは秘密主義で技術的に進んだアフリカの国、ワカンダを舞台にしている。映画はティ・チャラが父親の死の予期せぬ影響に対処するため故郷に帰るところから始まる。玉座を得ようと競ったりワカンダを外の世界に晒そうとするヴィランなどが相手だ。

 コミックを読みふけって育ったわけではなかったが、ボーズマンはこのキャラクターの重要性は常に意識していた。ブラックパンサー以前は黒よりも緑のヒーローが多かった。「映画化が実現すれば大きな転機になるとわかってた」と彼は言う。マーベルの数百億ドルがかかった映画フランチャイズの中でブラックパンサーが中心的な役割を負うことの意義も彼は理解している。「僕にとってだけでなくすべての人にとってね」
 今作の影響がボーズマンの胸に刺さったのはハロウィーンのことだった。ブラックパンサーは今季の一番人気の仮装の一つになった。「小さな子供たちが僕みたいな格好をしてるのを見るのはクレイジーだったよ」と彼は言い、これは無邪気なファンタジー以上の意味を持つのかもしれないと言い添えた。「大変な経験をしている子供たちは物語で気持ちを楽にしてるんだ」ブラックパンサーが与えうる力について彼はそう続ける。「大人だって苦難を乗り切る手助けに物語を使ってる」

 ブラックパンサーアベンジャーズ:インフィニティ・ウォー(5月4日公開)へ続くマーベルの10年間の旅路における最後から二番目の作品だ。ティ・チャラと彼のワカンダの仲間達を含めたマーベル・シネマティック・ユニバース中のキャラクターたちが結束する待望のスーパーヒーロー・マッシュアップ。ハルクとパンサーの邂逅だ。

 数年の間、ボーズマンは脚本家兼監督の卵から転向した俳優として埋もれていた。ロー&オーダーやERといったTVドラマのゲスト出演を多数こなした後、彼は2013年『42~世界を変えた男~』でジャッキー・ロビンソンの静かなる威厳をビッグスクリーンに見事映してみせた。一年後、彼は『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』で演技派としての技量を――そしてあのダンス・ムーブを――披露した。ブラウン役の演技がゴールデングローブやアカデミー賞にノミネートされなかったことで、ボーズマンはその年の多くの批評家の"選ばれるべきだった"リストに載った。
 2014年、ボーズマンはエル・キャピタン・シアターでの派手な記者会見でブラックパンサーとして公表された。地球上で最も強力なヒーロー達の内二人もそのイベントでステージに並んだ。キャプテン・アメリカとアイアンマン、ことクリス・エヴァンスとロバート・ダウニー・Jrだ。スーパーヒーローらしいことに、その時までボーズマンは自身の役柄を秘密にしていた。
「母さんにすら教えなかった」と彼は忍び笑いをする。「教えてもなんのことかわからなかったかもしれないけど。『オーケー、ブラックパンサー党の映画をやるのね?』って感じだったんじゃないかな」

 ボーズマンは実在の人物を描写するシリアスな映画畑にいたが、壮大なスケールの物語を描くスーパーヒーローの世界に入ることに躊躇はなかった。「世の中には人の精神を変え新しい現実を受け入れるようにする物事がある」ジーンズと黒のTシャツとジャケットというカジュアルな装いの彼はホテルのロビーにて紅茶のカップを前にそう話す。「ブラックパンサーがそうなる可能性があることはわかってた。商業的な面で、だけど同じく知的な面、スピリチュアルな面、芸術的な面でも。考えると遠大なことだよ」

 ストーリーテリングはボーズマンの人生に深く根を張っている。サウスカロライナ州アンダーソンで育った子供時代、彼の母親は息子に週に一冊は本を読むようしつけていた。それくらいの自己管理ができればトラブルから遠ざかり、その過程で目標に近づき一つ二つ教訓を得られると考えていたのだ。ある週、遊んでいて読書をさぼった彼は、自白する代わりに自分でちょっとした創作をした。
「母は読んだ本を知りたがったから存在しない本を作り上げたんだ」ボーズマンはにやりとして振り返る。「ストーリーを考えた。絵も描いたよ。実際になにか本を読むよりもその本を作り上げる方が時間がかかった。それがたぶんストーリーテラーとしての僕の始まりだった」それに演技のキャリアの始まりでもあった――彼の母親はそれをすっかり信じた。

 高校を出た後、ボーズマンはワシントンD.C.のハワード大学へ進み、監督業を学ぶと共に演技のキャリアの地固めをした。「育った環境には黒人の作者の本は滅多になかったから、その空間の外に知識を求めることになった」と彼はゆったりとした口調で言う。「僕が彼ら象徴的なキャラクターを演じてるのは、本の中に彼らを探して育ったから惹かれているんだよ」

 大学在学中、ボーズマンは脚本・監督業の夢から方向転換し、オックスフォード大学のブリティッシュアメリカン・ドラマ・アカデミーで演技を学んだ。そうするよう奨励された――というかゴリ押しされたのだ――教師だった『コスビー・ショー』女優、フィリシア・ラシャドに。そう、ミス・ハクスタブルが未来のブラックパンサーイングランドに行くよう説得したのだ。「そのプログラムのオーディションを受けるように説得されたようなもの」と彼は言う。「行くことになるとは思ってなかった」

 ボーズマンは人気スターの地位にはあまり興味がなかった。「スターダムは求めてなかった」と彼は言う。その代わり彼にとって意義のあるプロジェクトに携わった。2000年に警察に殺された同輩のハワード大生の話を下敷きにしたDeep Azureという演劇は2006年のジョセフ・ジェファーソン・アワード・フォー・ニューオークにノミネートされ、映画の脚本も複数本書き進めた。「生活していけるなら他人が僕を成功者と見なすか否かはどうでもよかった。結果が出るところまで来たんだ」

 近年スーパーヒーローになる俳優たちは基本的に役のために生活を捧げなければならない。台詞を覚えたりキャラクターの動機を理解するのと同等に厳格な食事制限と運動ルーチンを維持するのが重要なことになっている。ティ・チャラ役は彼が想像したことのなかった身体の使い方を必要とした。「身体的な役作りが日常になる――ヨガ、マーシャルアーツ、ウェイトリフティング」と彼は言う。「そういったすべてがキャラクターに続く道なんだ」
 演じるのが現実のレジェンドであれスーパーヒーローであれ、ボーズマンはすべての役柄に同じ精力を傾けてアプローチする。ブラックパンサーがインクとペンで創り出された存在であるにもかかわらず、映画の成功のため、物語の力強さのためには、ジャッキー・ロビンソンジェームス・ブラウンや昨年の法廷ドラマ『マーシャル 法廷を変えた男』で彼が演じた最高裁判事・サーグッド・マーシャルと同じだけキャラクターを肉づけをする必要があった。「僕にとっては自分自身を試して違う物事にトライしてみるいい機会なんだ、最終的にブラックパンサーを演じた経験は次に僕が演じる実在の人物の手助けになるだろうから――あるいは完全な空想の人物でも手助けになるよ」

 一方でボーズマンはまた別の有名人のメンターをロバート・ダウニー・Jrの中に見出した。マーベル映画8作に出演するかのベテラン俳優はスーパーヒーロー界のゴッドファーザーといえる。ダウニーはボーズマンに手ほどきをしつつマーベル映画機構の過酷な性質について警告した。「俳優の面倒を見るようにはできていない」と口にしてから言葉を止め、彼は考えを表現する適切な表現を――あるいは穏便な表現を探した。「自分たちの面倒は自分たちで見ないといけない」。直接的な会話で勉強したのと同じくらい、ダウニーが撮影現場でファミリーと交流する様を観察することによって学んだと彼は言う。「ファミリーは僕を気遣ってくれるし僕もファミリーを気遣う。スーパーヒーローというのは僕の人生の一部だ」と彼は話す。「でも僕の人生そのものではない――それがキーだよ」

 彼の語り口は慎重で端的だ。言いよどむことはなく、ジョークを言ってみせることもない――にっこりとはするが洒落た一言はなし。スーパーヒーローというものをこれだけ真剣に捉えているのは驚きだが、彼をよく知る人々にとってはおそらく納得なのだろう。
 アトランタでのブラックパンサー制作中の一夜、ルピタ・ニョンゴがキャストのためのボーリング会を開催した。『それでも夜は明ける』でオスカーを獲得した彼女はティ・チャラの元恋人でワカンダの女性特殊部隊の一員であるナキアを演じている。楽しい夜遊びになるはずだったその会をボーズマンは容赦のない競争へと変えていった。「彼の全勝だったよ」とティ・チャラの妹、シュリを演じるレティーシャ・ライトは話す。「私たちずっと『ワカンダに帰れ、出て行け!』ってジョークを言ってた」
 キュートな話だが、同時に、たとえば『42』に向けて5カ月間野球を練習したり『ジェームス・ブラウン』に向けてブラウンの動きを模倣するために日に数時間振付師に師事した所以であるボーズマンの鋼のような決心の表れでもある。アクション・ヒーロー映画の撮影現場という騒々しい環境でさえ、ライトは共演者について他人とは違う要素に気づいたという。「彼はあまり喋らないの。内に秘める人。すべてを把握してから口を開くっていう素晴らしい特性を持ってる」

 私生活についての話題になるとボーズマンは殊更に慎重になる。「他人には関係ないよ」将来的に結婚や子供を持つことについて尋ねると彼はそう答えた。例の100万ワットの笑顔を浮かべてはいたが。「そういう話をするとまったく違ったタイプの有名人になってしまう。私生活が仕事に流れ込む。僕は俳優で、人は演じる人物から僕を知る。僕という人物をなんとなく知ってもすべてを知ることはないんだよ」

 一方プロットに関しては、あまり多くを語らないよう厳命が下っている。お気に入りの撮影シーンは瞑想的なワカンダの儀式に関わるものだと彼は話してくれた。彼とエキストラたちは映画の撮影だということを忘れてしまうくらい入り込んだという。「あれは僕にとって特に興味深かった。キャラクターを衝き動かす家族や祖先や魂との繋がりを見せ、彼がなぜこう考えこう感じるのかを伝えるシーンなんだ」
 ある意味では、ティ・チャラを演じることでこのアフリカ系アメリカ人俳優は彼自身の祖先に触れることになった。「連れて来られたブラックの人々にとっては自分がどの民族の出身かがわからない。どの部族にルーツを持つか知らないから『かつて我々はこうして暮らしていた』とは言えないんだ。ここにあるのは完全に新しい文化だから、僕らはそこに入り込んだことがない人間だ。リアルだった。絶対に忘れない瞬間だよ」
 彼のこの言葉を受け、私は主流スーパーヒーロー映画でダークスキンの俳優が主演を務めることがどれだけ稀かを思い出させられた。このような映画でアフリカが舞台になることさえ稀だ。ワカンダという幻想的な王国をスクリーンに現すことは途方もないチャレンジであり、悲惨な事態も起こりえたということをボーズマンは認識している。実際、脚本兼監督のライアン・クーグラー(『クリード チャンプを継ぐ男』、『フルートベール駅で』)と彼のチームは原作コミックとアフリカの双方に忠実な土地を作り上げるため念入りに仕事をした。「そうしなければ滑稽なものになってしまうだろう」とボーズマンは言う。「この映画に携わった人間は一人残らずそれを意識してたと思うよ」

 意外な好転で、ブラックパンサーを演じた効果でボーズマンは元々やろうとしていた事に立ち返ることが可能になった。脚本と監督だ。我々の会話の間中、着信のたびジェームス・ブラウンを鳴らす代わりに振動する携帯を彼は無視していた。実現に向け温めているプロジェクトについて尋ねると彼は「ああ、そうだ」と言って画面を掲げ、一連のメールを見せてくれた。「こんなところ。話せたらいいんだけどね、僕が一番楽しみにしてることのいくつかは来年実現するかもしれないプロジェクトの執筆なんだ」

 とはいえまずは、ブラックパンサーはワカンダの王座を取り戻し、宇宙を救うアベンジャーズを手助けする必要がある。マーベルが次のフェーズに突入するにあたっての疑問がブラックパンサーはどのような役を担うのかということだ。アイアンマンは皮肉っぽいリーダー。ハルクはタフガイ。キャプテンアメリカは正義の人。スパイダーマンは愛すべきわんぱく小僧。ブラックパンサーはどの位置に収まるのだろう?
「収まる必要はない」とボーズマンは即答した。「それこそがブラックパンサーの肝心なところなんだ。彼は既に自分の場所を持ってる。我々はこれからそれを知るところなんだよ」。それから少しして身長180センチ超の俳優は立ち上がり、体勢を崩して私に片腕を回しさようならのハグをした。ボーズマンはクールでいることを気にしてなどいない。彼はそのままでクールなのだ。

 

Female Power

ブラックパンサー女性陣についてのボーズマンのコメント

ルピタ・ニョンゴ(ナキア、ティ・チャラの元恋人)
「ルピタはとても計画的な人。マルチタスクをこなす。王国を統率する姿が目に浮かぶよ」

ダナイ・グリラオコエ、ティ・チャラの腹心)
「人に紛れ目立たなくなるのは容易いけど、彼女は確実に彼女に光が当たるやり方を見つけさせる」

レティーシャ・ライト(シュリ、ティ・チャラの妹)
「レティーシャは不安だと認めることを恐れない。だけど不安によって思いとどまることはないんだ」

アンジェラ・バセット(ラモンダ、ティ・チャラの母)
「彼女はパワフルで強く、でありながら同時に過程に関して忍耐強い」